#6 なぜ学生は栗山で介護を学ぶのか?栗山町で学ぶ介護福祉学生|とくしゅう
35年の伝統を胸に北海道介護福祉学校
現在、少子高齢化が進む中、介護を必要とする方が増え続けています。一方で介護人材の不足が深刻な社会問題にもなっています。
栗山町立北海道介護福祉学校では、介護福祉士養成施設としてこれまで2,260人にのぼる卒業生を送り出し、町内はもとより道内各地に介護福祉士を輩出する、社会的な役割を果たしてきました。
少子高齢化の影響により、あらゆる職業で人手不足といわれる昨今、将来介護の現場で働くことを目指し学生たちは大きな希望に目を輝かせています。
1988年の第1期生104人によって歴史の幕が開け、今年度入学の第35期生25人まで、2,310人によって伝統のタスキがつながれています。一時は、入学倍率が8年連続で2倍を超え、最高3.3倍に達し、難関校と言われた介護福祉学校。なぜ、学生は栗山で介護を学ぶのか?介護・そして町に対する学生の想いを取材しました。
介護福祉学校のイマ~近年の状況・取り組み~
全校生徒50人1学年1学級編成
1年生25人・2年生25人の計50人が学んでいます。2014(平成26)年度より入学者数が減少傾向となる一方、運営を支える町の予算(一般会計)からの繰入金は増加傾向で推移しています。現在は1学年1学級編成で募集定員は40人(2020(令和2)年度までは80人)としています。
地域に根差した介護福祉士の育成
介護福祉学校では、独自の科目「キャリア形成支援講座」「地域活動研究」を創設しています。これは介護の授業だけでなく、地域でのボランティアや町民との交流、異業種連携などを通して地域に根差した取り組みを行い、栗山だからこそできる学びを深めています。
自治体連携で学生確保を目指す
他自治体でも、介護人材の不足は重大な課題です。栗山町では2022(令和4)年より道内自治体へ「介護人材確保に関する自治体包括連携」を提唱し、2022(令和2)年9月現在、6自治体と協定を締結(今後も拡大予定)しています。町外から2年間、栗山町で学び、その後地元に介護福祉士としてUターン就職をするサイクルの確立を目指します。
\座談会を開催/学生のリアルに迫る!
-介護福祉学校に入学した理由を教えてください。
高田 介護の仕事をしていた母の影響もあり小学生の時から介護の仕事がしたいと考えていました。進路選択の際は介護福祉士と社会福祉士の両方の資格が取れる大学、もしくは就職も考えていましたが、親や先生の後押しやオープンキャンパス(以下「OC」)をきっかけに、まずは短期間で国家資格が取れる学校に行こうと思い入学しました。
坂牛 もともと理系の大学に進もうと思っていましたが、ある日友人が病気で倒れた時があって・・・それ以来、限りある命を人の役に立って恩返しができるような仕事がしたいと思うようになりました。そこで、進路を考えてみて福祉の仕事に興味をもち介護福祉士になりたいと思うようになりました。
最初は高卒で就職しようとも考えましたが、資格を取った方がいいと思って、OCに参加したこの学校に決めました。町立の学校なので、学費面も充実していたというのも理由でした。
杉山 私も介護福祉士になりたいと思ってました。OCで先生と学生との距離が近く、仲の良い雰囲気を感じ、ここで学びたいと思いました。栗山町には毎年お祭りにも来ていたので身近な存在でした。また、岩見沢市出身なので、通える範囲なのも理由です。
松田 私は栗山町出身で、卒業後は就職を志望していましたが、職場体験学習でお世話になった受入先の病院の職員さんから、将来的に国家資格があるといいとアドバイスをもらいました。そこで、興味があった福祉の分野で身近な存在だったこの学校に進学を決めました。私も同じくOCで、先生と学生との距離の近さに魅力を感じました。
-皆さん、OCの話がありましたね。
全員 楽しくて何回も参加しました。
高田 前日まで馴染めるか不安でしたが、先輩が優しく受け入れてくれました。
坂牛 学校の雰囲気がとても明るく楽しかったです。あと昼食も美味しかったし、帰りは職員さんに駅まで送ってもらえて、サービスいいな・・・って(笑)。
高田 私も振り返れば、今の事務局の職員さんに送ってもらったと思う(笑)。
杉山 先生と学生の仲の良さは、既に感じましたね。
-町外出身者の3人は故郷を離れて学ぶことに抵抗はありましたか?
3人 特に・・・ないです。
坂牛 今一人暮らしですが住む前から、薬局やコンビニ・スーパーもとても充実していて住みやすいなと感じていたので、特に抵抗はありませんでした。自然が豊かなところも好きです。
高田 目的は夢のために資格を取ることだったので、抵抗は全くなかったです。最初「友達いなくても資格取れれば」と思っていました(笑)。今は学校や寮で友達と仲良くしています。
杉山 何度も来たことある町だったので、気にしませんでした。栗山は美味しいご飯屋さんがたくさんあるのがすごいと思います。前に、テスト前の疲れているときにお店に入ったら店員さんから飲み物とエールを送ってくれました。
全員 (笑)。
坂牛 自分は散歩が日課なんですけど、栗山町のドライバーさんっていつもゆっくり車を止めてくれて、親切ですよね。あと道も歩きやすいし、良い環境です。
高田 栗山町の人ってとても町思いというか、みんなが支えあって生活している感じがします。交通ルールや道路でのマナーを守る様子、交通安全の団体の方をみているとそんな思いが伝わってきます。
-町の好きなところが出てきましたが地元出身の松田さんどうですか?
松田 とても嬉しいです。私もご飯や人の温かさがお気に入りなので。私は、なかよし動物園のモルモットが可愛くておすすめなのでぜひ見てください。
全員 (笑)。
-さて、学校の話を聞きたいと思います。勉強は難しいですか?
高田 そうですね・・・。介護は専門的なこともあり授業は難しいものが多いです。でも基礎の部分だけでなく深堀して教えてくれるので、ためになります。
杉山 先生がとても優しいので、納得いくまで質問しています。逆に先生から「こんなことで悩んでない?」「顔に出てるよ」ってすごく気にしてくれています。
高田 もうなんでもお見通しって感じだよね(笑)。
坂牛 あと事務局の人たちも優しくて…親身になって相談や書類の書き方を教えてくれるので、とても恵まれています。
杉山 家族にも言われた。ふつうこんなに事務局が優しくて仲良くしてくれるのすごい珍しいよって。
高田 固いイメージだったけど、すごくラフじゃんてね(笑)。
-学校以外での活動は何かしていますか?
杉山 栗山町の老人クラブの人たちと交流する学生カフェを運営しました。レクリエーションを企画したのですが、最初は参加者に受け入れてもらえるかとても不安でしたが、会員の皆さんが優しくて、楽しく交流することができました。レクリエーション終了後のカフェタイムでも、たくさんお話しができて、貴重な機会になりました。
坂牛 最近だと介護施設での実習がありました。授業では普段学べないことはもちろん、現場の人たちの意識の高さはとても勉強になりました。
松田 同じく実習です。コミュニケーションをとるのが難しくて大変でしたが、貴重な経験になりました。あとは、OCの運営をしました。私たちの行うレクリエーションの様子をいろいろな人に見てもらって新しい学生さんに来てもらいたいと思います。
高田 今、2年生は「地域活動研究」として、これまで栗山町でお世話になった恩返しの意味を込めて、地域に根差した活動をしています。町民の皆さんで困ったことがあれば私たちがぜひ協力したいと思っています。
-では最後に町民の皆さんに向けメッセージをお願いします。
坂牛 この学校があるのは町民の皆さんの支えがあるからだと思っています。介護以外の分野やイベントのお手伝いとかもしたいと思っているので、力になれることがあればぜひよろしくお願いします。
高田 先ほども話した通り、私たちにできることがあれば、手助けをさせてほしいと思っています。それが、私たちの学びにもなりますので、ぜひ協力したいと思っています。
杉山 同じく2年生の地域活動研究を通して、町立のこの学校で2年間町民の皆さんの支えがあって通えているので、感謝の気持ちを伝えたいと思っています。
松田 栗山町でずっとお世話になって来たので、これからたくさん恩返しがしたいと思っています。
いつも学生たちからパワーをもらっています!
学生カフェやクリーンウォーキング事業など、介護学生たちには会うたびパワーをもらっています。以前に比べ入学者数は減り、コロナ禍でイベントも少ないので、学生を目にする機会のない方も多いかと思います。
しかし、栗山町には、こうして一生懸命取り組む学生がたくさんいます。活動や思いを知り、みんなで応援したいと思っています。
取材で感じる学生たちの可能性
町立の介護の学校というのが非常に珍しいなと思ったのが第一印象です。学生たちとはオープンキャンパスや学校祭、普段の授業などの取材を通して関わってきましたが、皆さんの明るさや元気にいつも驚かされます。また同時に、介護に対して強い想いをもって取り組んでいる様子も伝わってきます。
他の町や学校と比較しても、この学校で過ごせることは、人としての経験値が高くなるような気がします。学生たちと関わる中で、介護福祉は「コミュニケーションの原点」であると感じました。
コロナ禍の影響もあり、町民の皆さんの中には学生を見たことがない方もいるかもしれません。今後ぜひ普段の生活やイベントなどで、学生さんと関わっていただきたいです。不思議と介護の魅力や元気を与えてくれる素晴らしい皆さんです。
学び続けることその先に、地域の笑顔がある
人材不足と言われている介護業界ですが、一方で「住み慣れた地域で生き切る」という住民の思いに対し、人の生活を維持する介護福祉士への期待は高まっています。
現代の介護福祉士には、介護に関する知識・技術のみならず、より実践的な展開や異業種との連携、そして、地域における生活支援の視点が求められます。本校では「学びのフィールドは栗山」を合言葉に、地域に根差したさまざまな活動を行っており、ボランティア活動、小中学校の土曜授業、栗山高校との連携など、町民との関わりを通じて学びを深めています。
とりわけ、学生が小中学校の土曜授業などに関わるなかで「福祉や介護を身近に感じ、確かな情報を知り、伝える」時間を共有することは、学生一人ひとりが自らのキャリア形成を考える機会となっています。このように時代の動向に合わせた活動ができるのは、「福祉のまち栗山」だからと実感しています。そして、栗山に学ぶ学生の力を求めて、道内各地の自治体などから様々な協力依頼が寄せられています。今後も介護は一層の進化と深化が求められていくことでしょう。私は「学び続けること、その先に地域の笑顔がある」と信じています。
未来の介護を担う専門職養成教育の発展、そして本校を通して栗山町のまちづくりに関わりながら、時代に求められる介護福祉士の養成と町民に信頼、期待される学校づくりを進めたいと思います。
ご存知でしたか?北海道介護福祉学校誕生秘話
1987(昭和62)年、国は将来的な高齢化社会に備え「社会福祉士及び介護福祉法」を制定し、専門職を養成する指定大学や専門学校を全国に設置することを決めました。栗山町は、当時から福祉に力を入れていたことから、民間企業が計画していた私立の介護福祉学校の誘致を決め、町を挙げて開設に協力しました。しかし、当時の厚生省が設置者が医療法人では認可が難しいという見解を示したため、急きょ町立校とすることに転換し、1987(昭和63)年に認可されました。この年、全国で24校が開設していますが、唯一の公立校でした。
取材を終えて
特集のテーマ「なぜ学生は栗山で介護を学ぶのか?」。大きな希望を持って「学びたい」とする学生の想いに対し、栗山町がそれに応える形で学び舎を用意していた、両者の出会いがあったからこその「奇跡」だと感じます。貴重な2年間、栗山での学びを選んだことは、学生たちの未来が明るくなる第一歩であると確信しています。
最近、介護学科を持つ管外のとある私立の専門学校が、学生確保の困難を理由に来年度の学生募集を停止しました。学校から近隣に専門職を多く輩出していた現状から一転、介護人材不足が加速することが見込まれます。
取材の際、悪七校長は「介護を支える人材がいなければ、生活を維持することが難しくなり、他の地域に居場所を求め、人口流出の流れもできてしまう」と話していました。それほど介護人材は、地域にとって必要不可欠であり、この社会問題に対し、私立とは違う町立だからこそできる介護福祉学校が、35年の歴史と伝統を胸に、立ち止まることなく社会的な使命(役割)を果たし続けていると実感しました。
卒業生たちは、これまで町内外のさまざまな現場で活躍しています。そうした確かな実績こそ学校・学生の力が今もなお求められている理由でしょう。
激動の時代の中、介護に対して希望を持ち学ぶ学生たち。次代を担う皆さんの活躍に期待し、今後も応援していきます。
※ 本稿は、広報くりやま10月号に掲載した内容を補完したものです。