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#5 本を借りる選択肢(1/2)|まちのこと

読書家にとって本は大切な存在です。本を触れる機会はそれぞれで異なり、本屋で本を買って読む人、図書館に行って本を借りて読む人、電子書籍でペーパーレスで読む人など、人によって読むスタイルが違います。

「図書館で本を借りる」という行為は、図書館を利用する人にとって当たり前の光景ですが、必ずしも館(建物)の中だけで貸し借りが行われるものではありません。今回は「本を借りる選択肢」と題して栗山にある移動図書館と電子図書館について解説します。

前編は移動図書館。簡単に歴史に触れつつ、担当する司書の中井美希(みき)さんから栗山の移動図書館について話しを伺いました。

移動図書館のはじまりとは

移動図書館の歴史は古く、1850年代のイギリスで始まります[1]。アメリカではメリーランド州ワシントン郡の公共図書館で主任司書として活動していた女性、メアリー・レミスト・ティットコム(Mary Lemist Titcomb 1852-1932)により1905年に誕生しました[2]。

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19世紀中のアメリカでは、女性に開かれていた職業は教師と看護師以外に少なかった時代。ティットコムは一生の仕事として司書を選択し、アメリカ各地に移動図書館を広めた。

日本では、1948年に高知・鹿児島の県立図書館が開始しました。翌年の1949年に千葉県立図書館が始めた「訪問図書館ひかり号」が移動図書館のブームの先駆けを作り[3]、市や町といった自治体も移動図書館を開始することになりました。

栗山の移動図書館・くりくり号

栗山町では1991年に移動図書館事業をスタートし、専用の車を公募により「くりくり号」と名付けて運行を開始します。2012年に車の老朽化に伴い、写真の2代目の車にバトンタッチ。現在は町内を4コース(Aコース、Bコース、Cコース、栗小コース)に分けて巡回しています。(ルートの詳細は本稿「くりくり号巡回ルート」を参照)

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くりくり号は、中井さん(写真中央)のほか、司書の三上千裕(ちひろ)さん(写真右)と、運転を担当している山崎政一(まさかず)さん(写真左)の3人が担当している。

くりくり号内の蔵書数は2,200冊程度で、車内に図書を置くために蔵書に限りがありますが選書の基準は本館と同じです。「車に乗った小さな図書館」としてどの本を載せるか、司書の中井さんと三上さんの腕の見せ所です。

利用者は子どもが多く、特に栗山小学校の児童が多く利用しており、児童書や絵本や図鑑、小説などが多く借りられています。

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取材日は栗小コースの巡回日で、肌寒い中、多くの児童が列をなして待っていた。子どもたちの様子からくりくり号が来ることを楽しみにしていることがわかる。

今年(2021年)から、Cコース(マロンキッズ保育園)が加わりました。保育園の先生からの要望によりコースが生まれ、巡回時には季節に応じた絵本について質問や相談を受けており、保育園の読み聞かせにも一役を買っています。

もちろん、くりくり号は子どもたちの図書館ではありません。利用者の中には毎回、熱心に児童書を借りて読む年配の人がおり、その人は「図書館だと絵本が児童コーナーに本があるから借りるのが恥ずかしいし、厳選されているから、毎回楽しみに来ているんだよね」という理由で、くりくり号を利用しています。

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図書カードがあれば、どなたでもくりくり号にある本を借りることができる。取材時にも貸出を依頼したが、図書館と同じ手続きで本を借りられた。自分の生活圏内に巡回ルートがあれば、実際に利用してみて欲しい。

中井さんも「くりくり号は、子どもの利用は多いですけど、大人にも利用してほしいんですよね。それぞれのスタイルや価値観が異なりますから、その人にあった利用として移動図書館があれば」と語っています。

移動図書館の役割と目的とは何か

さて、この移動図書館という取り組み。町の知的インフラである公共図書館が行う事業として、どのような役割と目的があるのでしょうか。少し書籍や論文から整理してみたいと思います。

移動図書館の役割を整理すると、久保田(2016)によれば「分館がある程度建築されたのち、それでもなお空白地域へのサービスと並んで、『社会的・環境的に不利益を被っていて、図書館利用から疎外されている人々』のところに出かけていく活動として役割がある」[5]と、しています。

栗山も本館以外に角田・継立に分館がありますが、この3館だけでは、南北に広い栗山全域をカバーすることが難しく、空白地域をカバーすることができる移動図書館の役割は大きいと言えます。

災害時には、先述した図書館の役割が顕著となる場面も多くあり、近年では、東日本大震災や北海道胆振東部で図書館が被災したときに、被災者のもとへ本を届けることができる移動図書館が活躍[4]しています。

移動図書館の目的は、古く書籍からも確認ができ、1977年発行の「図書館ハンドブック第4版」では以下の4点を挙げています。

(1)人口密度が低く、分館を設置することが出来ない地域や、分館から遠隔の地に居住する人びとに対して、図書館サービスを行きわたらせること。
(2)市街地において、(中略)分館からの直線距離はそう遠くはないが、鉄道、河川、幹線道路その他の障害物等によって、時間的あるいは心理的な距離が隔たっている地域の住民に図書館サービスを保証すること。
(3)身体の障害、高齢その他の事情により、本館、分館を訪れることのできない人びとに図書館サービスを保障すること。
(4)図書館網完成前に、できるだけの図書館サービスを提供するための、分館の暫定的な代替としての役割を果たすこと。
出典:日本図書館協会(1977) p.351

栗山の場合は、(1)~(3)が該当します。いずれも来館しにくい地域に住む住民や、高齢・心身の障がいなどの理由から図書館を利用できない住民を対象に誰にでも図書館の利用する機会を保障するものです。

役割と目的から見てもわかるとおり、移動図書館は、本来の「公共図書館の在り方」[5]にも繋がる取り組みの一つとして、公共図書館の役割を果たす手段であるといえます。

後編は「電子図書館」について解説します。お楽しみに。

【注釈】
[1]American Libraries Magazineより
[2]グレン・渋谷(2019) p.22
[3]図書館情報学ハンドブック編集委員会(1999) p.718
[4]東日本大震災でのシャンティによる活動や北海道胆振東部地震によるむかわ町立穂別図書館の活動が挙げられる
[5]久保田正啓(2016) pp.310
[6]公共図書館の在り方については議論の余地があるが、本稿は文部科学省HP「これからの図書館像」を参考とした

【参考文献】
・シャーリー・グレン著・渋谷弘子訳(2019)『「走る図書館」が生まれた日 ミス・ティットコムと アメリカで最初の移動図書館車」』評論社
・日本図書館協会(1977)『図書館ハンドブック第4版』日本図書館協会 
・栗山町図書館(2021)『栗山町図書館年報~令和2年度(2020年)実績~
・久保田正啓(2016)「アウトリーチの観点から見た市立移動図書館の役割と意義-「第三の場」理論を下敷きにして-」図書館界 67(5) pp.310-316
・American Libraries Magazine「Bookmobiles: A Proud History, a Promising Future」(2012/4/11付け記事)

※ 本稿は、2021年11月25日に行った取材をもとに作成しています。

文章・写真:望月貴文(地域おこし協力隊)

おまけ:くりくり号の巡回ルート

くりくり号の巡回ルートをGoogleマイマップに落とし込んで見ました。実際の本を借りるときに活用してみてください。

最新の巡回ルート・日程は、栗山町図書館のWebサイトをご覧ください。

Aコース(第1・3金曜日)

①めぐみこども園 12:05~12:35
②雨煙別消防署 12:45~13:10
③総合福祉センターしゃるる 13:15~13:50
④角田小学校 14:00~15:40
⑤桜山自然の家 15:55~16:20

Bコース(第2・4金曜日)

①工業団地 12:05~12:30
②日出生活館 12:45~13:10
③継立まつば保育園 13:25~13:40
④継立小学校 14:00~15:40
⑤御園公民館 15:50~16:20

Cコース(第2・4水曜日)

マロンキッズ保育園 14:00~14:30

栗小コース(第2・4木曜日)

①総合福祉センターしゃるる 13:00~13:55 ※第2木曜日のみ巡回
②栗山小学校 14:00~15:40

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