#6 文学少女から、知の拠点を預かる専門家へ|くりやまのひと
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#6 文学少女から、知の拠点を預かる専門家へ|くりやまのひと

文化施設である図書館、図書館を支える「司書」

美術館や博物館とともに、住民の文化芸術活動の場である図書館。その図書館は、「司書」という文字通り「書」物を「司」る専門家によって支えられています。

北海道栗山町も、公共図書館として「栗山町図書館」が所在しており、司書の一人である野澤香(かほり)さんは、司書を統括する立場にいます。

今回は、野澤さんに司書になった理由と、これからの栗山町図書館について話しを伺いました。

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栗山町図書館は、15万冊を超える蔵書を誇り、館内には幼児コーナーを始め、自習机やAVコーナー、無料Wi-Fiを備えている。町内には分室として、角田図書室と継立図書室がある。

友人の夢をもらい、自分の夢とした

野澤さんは、北海道札幌市の出身。小学校入学前に両親の都合により、高校まで北海道泊村で育ちます。

司書というと「本が好き」というイメージがあります。昔から本は好きだったのか、と野澤さんに聞くと「本は好きではない」とキッパリと否定します。では、なぜ司書になりたかったのか、と尋ねると、次のように話してくれました。

小学校のとき、将来の夢を書く機会があるじゃないですか。最初、自分は何を書けばよいか分からなかったですけど、小学校2年の時、仲のいい友達が「司書」と書いていて、名前の響きがいいな、とその時は思ったんですよ。次の年に夢を書く機会があり、その子が違う夢を書いていたんですよね。「じゃあ、自分がその夢をもらっちゃおう」と、司書の夢をいただくことにしました。

その後も、節目、節目で自分の夢を「司書」と、書き続けることになります。その行為が「自分の夢=司書」という自己暗示となり、自分は司書になるんだと強く願うことになりました。中学、高校時代も同様に、司書を夢としており、大学進学も、司書資格が取得可能な大学を選択しました。

大学生になり、いざ本格的に夢に向けて動きだすと、司書という職業は採用数が少なく、正職員として働くには「狭き門」であることを理解します。しかし野澤さんは「自分がなれないはずない」と謎の自信を持っていました。

就職活動も司書の一本に絞ります。当時、正職員として募集していた北海道の公共図書館は、余市町と栗山町の二つ。野澤さんは「見知らぬ土地が良い」という理由で栗山町を選びます。

面接では、謎の自信が信念として面接官に伝わり、採用枠1名の壁を見事突破。栗山町図書館で念願の司書として働き始めます。

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野澤さんは「採用されたのは本当に強運だった。当時を振り返ると『司書になりたい』という人が沢山いるなかで、自分の動機や想いが未熟で、向こう見ずだった。いざ自分が採用する立場になってみると、当時の自分は採用しなかっただろうな」と語る。ただ、特定の業種に就きたいという強い想いは、向こう見ずな場合でも、採用官の心に刺さることもしばしばある。

本当に「本が好きではない」のか

さて、ここまで野澤さんが司書になった経緯を紹介しました。野澤さんは、昔は「本は好きではない」とキッパリと否定していましたが、果たして、本人が言うほど、本が好きではなかったのでしょうか。少し野澤さんの幼少期を振り返ってみましょう。

まず、野澤さんが本を読み始めたのは小学2年の頃になります。実家の本棚にある、お母さんの村上春樹の「カンガルー日和」を読んだことがきっかけです。小学生の野澤さんにとって、当時の村上春樹の文体が刺激的だったようで、いけない事をしている訳ではないのに、両親に内緒で読みふけっていたといいます。

中学の頃は、内容を完全に理解しないまでも、タイトルのかっこよさに惹かれ、キルケゴールの「死に至る病」や、ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」といった本を手に取っていました。

また、中学の修学旅行では、見学先の計画を自ら買って出ており、旅行先を東京から東北へ変更。メインの見学先を「宮沢賢治記念館」とし、古典の先生を喜ばせていたと言います。

これらのエピソードは一例に過ぎませんが、これだけ見ても野澤さんは、相応の「文学少女」として、幼少期を歩んでいたと推察できます。

本の写真

野澤さんは、普段から小説をよく読んでおり、バックには常になんらかの小説を持ち歩いているという。職業人としての一面もあってか、取材の中でも、言葉の節々に文学的な語彙や表現が多く見られた。(画像提供:野澤香)

司書として、これからの図書館とどう向き合うのか

一人の文学少女が、栗山の地で念願の司書として働き始めることになりました。野澤さんに、実際の司書の仕事を聞くと「大好きな仕事です」と答えます。

当然、就職前に想い描いていた仕事と、実際の仕事にはギャップがあった場面もあったようです。「図書館は0歳から100歳までが利用する場所」と、頭では理解していましたが、子供たちに対して「絵本を読む」という行為は、大学の座学でしか学んでいなかったため、実際の司書の仕事として接することで、実践と理論の交わりにより理解を深めていくことになります。

司書の仕事は、本の貸し借りだけではありません、開架の整理や本の修理、本の選定、蔵書点検、新刊を案内するためのPOPを作成など、利用者が心地よく利用できるための仕事がたくさんあります。

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取材日は休館日だったが、司書が総出で、本の在庫チェックや陳列本の整理に勤しんでいた。図書館を利用しやすいようにと、見えないところで司書の気遣いがあふれている。

現在は、司書を統括する立場にある野澤さん。これからの図書館をどうしていきたいかを聞くと、「図書館学の五原則」に誠実でありたい、と言います。

「すべての人に、その本を」、「その本を、すべての人へ」という言葉がありますが、栗山町図書館もそうありたいです。栗山に住むすべての人に、楽しさを見いだす資料を提供したい。資料は本だけじゃありません。漫画や音楽、絵画、映画、すべてが「図書館資料」に当たります。利用者が図書館資料を手に取り、その人の「知らない・初めてが生まれる場所」でありたい。

最後に、図書館学の5原則を次のとおり整理しています。栗山の知の拠点を守る一人の司書の本懐を読み取ってください。

図書館学の五原則<ランガナタンの五法則>
第一法則 Books are for use.
 図書は利用するためのものである。
第二法則 Every reader his or her book.
 いずれの人にもすべて,その人の本を。
第三法則 Every book its reader.
 いずれの本にもすべて,その読者を。
第四法則 Save the time of the reader.
 読者の時間を節約せよ。
第五法則 A library is a growing organism.
 図書館は成長する有機体である。
出典:Ranganathan・森(1981)

【参考文献】
・S.R.ランガナタン著・森耕一訳(1981)『図書館学の五法則』日本図書館協会

※ 本稿は、2021年8月23日に行った取材をもとに作成しています。

文章・写真:望月貴文(地域おこし協力隊) 写真:長広大(地域おこし協力隊)

栗山町図書館の基本情報

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栗山町図書館
住所:〒069-1511 北海道夕張郡栗山町中央3丁目309
電話: 0123-72-6055
開館日:火曜~日曜 (休館日:月曜・祝日・年末年始ほか)
時間:10:00~18:00 木曜日は20:00まで
HP:https://library.town.kuriyama.hokkaido.jp/
角田図書室
住所:〒069-1524 北海道夕張郡栗山町角田157番地1
   (農村環境改善センター2階)
電話: 0123-72-6040
開館日:水曜~土曜 (休館日:日曜~火曜・祝日・年末年始ほか)
継立図書室
住所:〒068-0353 北海道夕張郡栗山町継立176番地8
   (南部公民館2階)
電話: 0123-75-2111
開館日:水曜~土曜 (休館日:日曜~火曜・祝日・年末年始ほか)

2021年8月1日から電子図書館をスタートしています。

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