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#17 システムエンジニアの経験を生かし「スマート農業」を実践|くりやまのひと

夏も終わりに差し掛かり、秋になれば多くの農作物は収穫の時期を迎えます。日本の根幹である農業は、多くの農業生産人口に支えられてきましたが、1990年の482万人から2019年には168万人と減少が著しく[1]、平均年齢も68.7歳(2023年)[2]と高齢化も進行しており、遊休農地の増加とあわせて、日本の農業には多く課題を抱えています。

一方、農業総算出額はピークである1990年に11.5兆円から、2010年に8.1兆円まで落ち込んでいましたが、2016年から9兆円台[3]と復調しており、農業経営法人の増加やブランド野菜の台頭、効率的な農業経営手法の開発・実践など、農業をとりまく環境は、日進月歩で進化しています。

インターネット(情報通信)の技術を活用するスマート農業も要因のひとつ。ドローンによる農薬の散布や無人トラクターが動く様子を、近年のメディアを通じてご覧になった方も多いかと思います。

今回の主役である堀田一司(ひとし)さんは、システムエンジニア(以下、SE)の経験を生かしてスマート農業を実践する農家の一人です。今回は、堀田さんからシステムエンジニアになったきっかけや、これからのスマート農業についてお話していただきました。

撮影:鈴木敦文

堀田さんは、株式会社自ゆう耕場の代表として、栗山町中里に15基のビニールハウスと約1.9haの農地を構え、トマト、ピーマン、小麦、カボチャなど栽培している


大学の部活が縁でSEの道へ

堀田さんは、道北にある士別市の出身。地球の大自然に魅せられ、幼少期は地図を眺めたり、英語を懸命に勉強するなど、世界を舞台に活躍を夢見た少年でした。

撮影:鈴木敦文

小学生の頃は、TBSテレビの兼高かおるの世界の旅を見たり、両親から「世界の地理(週刊朝日百科)」の雑誌を買ってもらい、熱心に読み返していた。教科書に載っていない世界を知るのが楽しかったという

自然にも魅せられ、生物にも興味を持っていた堀田さんは、富山大学理学部に進学。陸生生物を専攻していましたが、当時は真面目に学んでいたのかなと首をひねりながら「あまり褒められた学生生活ではないかな」と語ります。

部活動の自動車部に熱心に活動していたこと、部員の多くは工学部ばかりだったこともあり、理学部の学生からは、同じ学部の学生として見られなかったことも多かったといいます。

人生の転機はその部活動での出会いから。活躍を見ていた富士通の採用担当者の目に留まり、当時、設立まもない富士通北海道システムエンジニアリング(現富士通システムズ・イースト、以下富士通)に1984年入社。システムエンジニアとしての道を歩みはじめることになりました。

最前線で働くSEとして成長

未経験の世界であるSEに飛び込んだ堀田さん。当初は不慣れなプログラム言語に苦しみながらも、大学の恩師の教えを糧に着実にスキルを身につけることになります。

今振り返ってみると、SEは自分の考え方にあった仕事だったと感じています。帰納法や演繹法からわかる解というか「一回の事実だけだと誤りかもしれないから、事実の連続から突き止める(証明)ができれば、おもしろいよね」という恩師の教えは、最初は楽しくはなかったですけど、続けていくうちに理解して楽しくなり、後々の仕事の中で生きる場面が多かったなと。実験のちょっとした操作の誤りを見逃さない先生ならではの言葉でしたけど

また、富士通の社風も、堀田さんを成長させた大きな要因でもあります。

入社間もないころに、日本経済新聞から転職してきた社員が同僚にいて、その人から提案書(企画書)を作ることを徹底的に叩き込まれました。一生懸命作った提案書を、大幅に赤ペン入れ(修正)してもらったときは、悔しかったですけど、同時に楽しさもあって、(前述の)恩師の教えとともに成長を感じられた時間でした。やってみたい企画が上司(決定権者)に通りやすい環境もあったから、チャレンジングなことも多くできた。そのために家族と時間をつくるための自己管理組織マネジメントを徹底的に考えたりもして、楽しく仕事をしていましたね

挑戦的な人物を評価する社風は、堀田さんの仕事観の後押しにもなり、23年間、第一線で働くSEとして活躍します。主に百貨店の流通や公共団体向けのシステム開発を手がけましたが、50歳手前に差し掛かり、一定の達成感を得た堀田さんは、早期退職制度に伴い2007年に退職を決意。セカンドキャリアとして、奥様の故郷である栗山に移住し農業を志すことにしました。

わからないだらけの農業に「根拠」を見つける

農業を志した理由を聞くと「いままでの仕事と関係のない仕事をしてみたかった」と、語る堀田さん。

農業研修を経て2012年から農業をスタートさせましたが、当初は悩みも尽きず「ベテラン農家さんに聞いても、経験や感覚が備わっていない私には、わからないことだらけ」と大変苦労したといいます。

先輩農家からのアドバイスも、経験が少ない自分の中ではしっくりくることが少なく「何か理解を補うための手段はないものか」と模索するうちに「データが無いと検証することもできない」という考えに至ります。

折よく、富士通のOBが起業して小規模のデバイス開発を試みていたこともあり、共同でビニールハウスに自作のセンサーシステムを導入するようになりました。

当初と想いとは裏腹に、思わぬ形でSEのスキルが生かされることになった営農でしたが、ビニールハウスの得られたデータを蓄積し、データに基づいた手法を試すうちに、農業に対する自信が身についていったといいます。

撮影:鈴木敦文

写真中央の機器は、堀田さん自作の温湿度センサー。ハウス内の温度や湿度、CO2濃度を測定が可能で、スマートフォンで確認できる

2016年からは、誰でも手入れしやすい機器とモニタリング(観測)システムの開発・販売をはじめ、温湿度センサーや土壌センサーをはじめとした、さまざまなスマート農業を実践しています。

ビニールハウスごとにシステムや機器を変えて、異なる栽培条件の中で生育状況を比較するなど、より良い栽培に向けて模索を続ける毎日です。

これからの「スマート農業」の視点

堀田さんは、ICT[4]やIoT[5]デバイスを駆使しながら、労働力を増やさずに農業経営の向上を目指しています。先述のとおりスマート農業は、昨今の農業課題に対応した手法の一つです。

しかし堀田さんは、スマート農業に対する国や自治体、大学・研究機関、民間企業の動きや考えと少しズレが生じていると感じています。次のコラムからは、農業・SE、両方も経験を踏まえた内容が伺えます。

例えば、スマート農業の実現効果として、省力化で一日の作業時間が軽減されるとか人手不足の解消につながると説明されたとする。人手不足というのは、農業の問題だけではなく地域社会の現実であり-(中略)-自分では解決できないものという潜在意識により人手不足の解消=無駄な努力と受け取ってしまうのである。これを効率化や自動化により今の人員で規模拡大が可能となる、スマート農業はそのための投資であると説明するとどうだろうか?スマート農業で収量アップが可能というよりは、同じ労働(人×時間)で規模が拡大=収量アップ=売上増という前向きな思考の展開が可能となるのではないだろうか。-(中略)-農業者が今実践している科学的手法の延長線上で導入のメリットや目的を会話できれば、時として大学の研究室よりも高度な科学的見地の話が飛び出してくる

引用:日本農業情報システム協会より

農業が基幹産業である栗山町においても、2022年に策定した「栗山町第7次総合計画」の中で、スマート農業の推進についても明記しており、同年策定した、栗山町の農業振興計画「第5期栗山農業ルネッサンス」においても、営農対策の中で、同様の記載をしています。

ICTやIoTを活用したスマート農業は、冒頭で述べたとおり社会的な課題解決としての側面もありますが、現場で利用する農家の経営改善はもちろんのこと、痒いところに手が届く困りごとの解決にもつながる側面も持っています。

これまで培った経験やデータを基に、次世代の主力を担うSEとともに、新規就農者をサポートするスマート農業を作り上げたい、と語る堀田さん。現場での導入が進むように、研究開発や農家への人材育成が可能なの場(コミュニティ)の形成を願う一人です。

注釈
[1]農林水産省HP「農林業センサス」、「農業構造動態調査」
[2]農林⽔産省(2024)「農業経営をめぐる情勢について」 p.10
[3]農林水産省HP「令和4年 農業総産出額及び生産農業所得(全国)」
[4]Information and Communication Technologyの略。情報通信技術の意味
[5]Internet of Thingsの略。モノのインターネットを意味し、家電製品・車など、「モノ」をインターネットと繋ぐ技術のこと

参考文献等
・農林⽔産省(2024)「農業経営をめぐる情勢について」 
・農林⽔産省HP「農林業センサス
・農林⽔産省HP「農業構造動態調査
・農林水産省HP「令和4年 農業総産出額及び生産農業所得(全国)」
・栗山町(2022a)「栗山町第7次総合計画
・栗山町(2022b)「第5期栗山農業ルネッサンス」・日本産業新聞「農業革新へIoT アグリテック中小生産者も」2017年9月28日付け記事
・日本農業情報システム協会「【株式会社自ゆう耕場】農業者としてスマート農業に取り組む意義」2018年5月17日付け記事
・アグレポ「ビニールハウスのモニタリングシステムを自作 システムエンジニアから転身した新規就農者の挑戦」2023年1月26日付け記事
・太陽と水と土「『プランテクト®』ユーザーインタビュー」2022年10月21
日付け記事

※ 本稿は、2024年8月16日の取材をもとに広報くりやま2024年9月号で掲載した内容を加筆しています。

広報くりやま2024年9月号

文章:望月貴文(文化観光プランナー) 写真:鈴木敦文(地域おこし協力隊)


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