見出し画像

#15 地域につながる高校野球のチカラ|とくしゅう

北海道栗山高等学校(以下、栗高)には、全国でも珍しい2つの硬式野球部が存在します。創部50年以上の歴史を誇る男子野球部と今年の4月に始動した女子硬式野球部。

両部ともに「単独チーム(同じ高校の生徒のみで構成されたチーム)」として、今年新たな一歩を踏み出しました。男子・女子ともに地域に根付いたチームとして、大好きな野球を志す姿を今回特集します。


たった二人の男子野球部、単独チームとしての挑戦

かつて道内屈指の「強豪」と呼ばれていた栗高男子野球部。1971(昭和46)年の夏には、南北海道大会に出場し、準優勝を成し遂げ、甲子園出場まであと一歩というところまで登り詰めていた時代もありました。
 
しかし、現在の野球部員はわずか2人。試合を行うのに必要な9人には遠くおよばず、このままでは大会に出場するメンバーが足りません。

今夏までは夕張や芦別などの他校との合同チームとして出場していましたが、3年生引退後「栗高単独でのチームとして大会に出場したい」という、部員たちの熱い思いに、クラスメイトや友人たちが賛同。「助っ人参加」としてメンバーを集めた新チームが結成されました。

メンバーが揃ったとはいえ、全員が野球経験者ではありません。しかし、それぞれが野球を楽しみ、汗を流し、時に涙を流すなど、全員が「公式戦初勝利」に向けて努力する姿が見られるグラウンド。今回はそんな野球部の活動と彼らの思いを紹介します。

素振りで打撃フォームのチェックを行う

夏の大会で引退した3年生部員

助っ人も含めた打撃練習

ベンチからのサインで指示を受け取る

高齢者宅の除雪ボランティアを行った

ついに部活動として始動、女子野球で町を元気に

近年、入学者数が減少し、学校の存続が町の課題ともされている栗高。令和元年から町民有志による提案から始まり、魅力づくり活動の一環として、女子野球部の創立に向けた動きが進みました。

令和3年に部設立に向けた準備委員会が発足し、監督には元女子野球日本代表の金由起子(ゆきこ)さんが就任。1年間の同好会活動を経て、迎えた今春、部員15人の単独チームとして新たに始動しました。また同時に、高校の今年度入学者数の増加にもつながる結果となりました。(下記、表参照)

表:栗山高校の入学者数の推移

入学者は、道央・道南・道東、神奈川県など、出身地はさまざまです。監督に加え、地域おこし協力隊女子野球支援員として本吉若菜(わかな)隊員をコーチに迎え、日々練習を重ねています。

7月には全58校が参加した全国大会にも出場し、見事初戦を突破するなど、確かな手応えを掴んでいます。新たな気持ちで始まった女子野球部の活動の今を紹介します。

大会で力強いフォームのピッチングを披露

町民からの激励と差し入れを受け取る

町の総合防災訓練に参加

ヒットを放ち決めポーズ

後援会が開催した女子硬式野球激励会で決意を述べる

ご存知ですか?硬式の男子と女子の高校野球

Q 試合ルールの大きな違いは?
試合のイニング数(男子:9回・女子7回)と女子のDH制[1]以外は、大きな違いはありません。ボールの大きさ、マウンドから打者への距離なども同じルールで行われています。

Q 高校野球の競技人口は?
男子は平成26年の約17万人をピークに、現在は約12万8千人[2]と減少傾向。部員不足による他校との連合チームとしての出場も増えています。一方、女子の競技人口は令和4年で1,524人[3]ですが、この数年で3倍近く増えており、道内でも札幌新陽、駒大苫小牧に加え、今春より旭川明成に女子野球部が新設されました。その中でも栗高は道内唯一の公立学校でのチームとなります。

たった二人の男子野球部新たな挑戦への思い

単独チームへの感謝新チームとして始動

3年生が引退後、「連合チーム(他校の生徒も含めたチーム)」「単独チーム」の決断を迫られた際、主将の松尾弘人(ひろと)さんは、迷わず単独チームへの道を志したいと宣言したといいます。

「栗高として出場し、学校や地域を盛り上げたい」そんな思いに賛同した助っ人たちで構成されたのが、現在のチームです。新体制となって数ヶ月。「チーム栗高」として挑む、彼らの今を取材しました。

友人への感謝の気持ち

2年 松尾 弘人(ひろと) さん

3年生が引退後、助っ人としての参加を快く引き受けてくれた友人たちには大変感謝しています。大会だけでなく日頃の練習にも積極的に参加してもらっており、普段の学校生活でも仲が良いので、とてもいい雰囲気で練習ができます。実力はまだまだですが、元気とチームワークが私たちの売りです。今後も主将として全員を引っ張っていきます。

勝つ喜びを味わいたい

1年 照井 悠生(はるき) さん

中学校まで人数が多い環境でプレーしてきたので、少人数での活動に戸惑いもありましたが、助っ人たちへの技術指導や声掛けを通じて、周りへの気配り・自身の練習効率の向上に繋がっています。当面の目標は「公式戦初勝利」。たくさん努力が必要だと思いますが、早く全員で「勝つ喜び」を味わい、みんなに恩返しができればと思います。

気持ちは野球部の一員

2年 助川 劉砥(りゅうと) さん

バスケットボール部に所属していますが、友人や先生からの勧誘もあり、助っ人として協力しています。中学校までは野球をやっていたので、少ない人数で頑張る友人たちの姿に心打たれ、またプレーしてみたいと感じました。助っ人とはいえ、気持ちはこれからも野球部の一員です。全員で3年生の最後の夏の大会まで駆け抜けたいと思います。

地域に愛される野球部を目指して

今冬に行われたミーティングの際、「誰からも応援されるチームになりたい」という目標が部員たちから提案されました。

そのためには何をするか、チームで検討した結果、自らがボランティアを行うことで地域に貢献し、応援してもらうチームを目指すという結論に至りました。直後に社会福祉協議会を通じてボランティアを申し入れ、2月に除雪ボランティアを行いました。

松尾さんは「引き続き除雪やまちの清掃活動など、私たちにできることがあればぜひ協力したい」と話します。野球だけではない地域に根差した存在として、野球部の挑戦は続きます。

部員2人とマネージャー、この日参加した7人の助っ人との集合写真

Interview

浅利 孝子(たかこ) さん(湯地・旧定食屋「案山子」)

野球部の皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。実は除雪いただいた直後に一時期入院してしまったので、もし今年の大雪で全く除雪していなければ...本当に助かりました。よく買い物帰りに練習の様子を遠くから見させていただいています。頑張る皆さんの姿にいつも元気をもらっています。これからも応援しています。

栗山高校を背負う立場として

野球部監督 清水 瑛樹(えいき) 教諭

助っ人の力を借りての単独チーム結成は、大会に出場することだけが目的ではありません。選手たちの成長はもちろん、部員以外の多くの生徒が野球を頑張る姿は、学校全体の盛り上がり、そして栗高の魅力の発信にもつながると考えています。

今年の夏の大会では全校応援も行われ、学校のみんなが野球部を応援する気持ちが高まっているとも感じており、1・2年男子24人中、部員・助っ人として携わっているのが15人もいます。応援側・プレー側の両方の力で野球部は成り立っています。

選手たちには日頃から「みんなが栗高を背負っている」と伝えています。今後は、チーム目標である「誰からも応援されるチーム」の実現に向け、野球部への応援が広く地域にも波及し、「栗高で野球をやりたい」「頑張っている栗高生を応援したい」「栗高に入学したい」という気持ちにつながればと考えています。

生徒たちには多くの方への感謝の気持ちを忘れず、野球を通じて学び・考えることで、立派な大人に成長してほしいです。

女子野球で栗山から全国へ 野球・地域への思い

栗山から全国へ 女子野球部の新たな挑戦

「栗山で女子野球をやりたい」。そんな思いをもった彼女たちの新チームが初勝利をあげたのは、結成から約3か月目でした。勝てない時期が続きながらも「もっと上手くなりたい」という強い気持ち、そして地域からの応援が勝利につながったといいます。

9月で公式戦は終了し、来シーズンに向けて練習する15人。今後の目標、そして町外出身者の彼女たちから見る栗山の姿を聞いてみました。

活動から町の盛り上がりへ

1年 金泉 結空(ゆあ) さん(札幌市出身)

小学校までは野球、中学ではテニスをしており、高校から再び野球を始めたいと思い、新体制のチームで自分もスタートしようと栗高を志望しました。日々の練習をはじめ、寮生活、普段の学校生活も含めて大変充実しています。

スーパーやコンビニが揃っている環境でもあり、今ではとても好きな町です。私たちの活動は、今後の町の盛り上がりにもつながると思うので、これからも頑張ります。

感謝の気持ちを結果で

1年 澤田 芽依(めい) さん(北斗市出身)

中学から硬式野球をやっており、元女子野球日本代表の金監督の下で野球がやりたいと思い、入部を決めました。最初はなかなか試合に勝てず、悔しい思いもたくさんしましたが、だんだんと勝てるようになり、成長を実感した1年目でした。最近、練習帰りやお店で「がんばってね」と声を掛けられる機会も増えてきました。町民の皆さんにもっと良い結果を報告できるように頑張ります。

貴重な体験に感謝

1年 石渡(いしわた) 帆夏(ほのか) さん(神奈川県出身)

地元の強豪校への進学も考えていましたが、栗高の女子野球体験会に参加して、練習環境や雰囲気の良さに惹かれ入学を決めました。練習は大変ですが、著名な方にご指導いただいたり、エスコンフィールドでのプレーなど、恵まれた中で過ごしています。栗山は地元と比べ人との距離が近く、町民の皆さんの温かさを日々感じています。感謝の気持ちを忘れずプレーで期待に応えられればと思います。

大会・試合
今年は大会・リーグ、練習試合など多く試合に出場。背番号がさまざまなのも女子野球ならではの特徴です

寮生活
部員全員が寮生活を送っている。練習の疲れもあるなか、洗濯や掃除なども自らの手で行っています

練習
世界を舞台に活躍した金由起子監督による熱い指導が行われています

体験会
岩見沢や釧路、埼玉県など26人が参加した女子野球体験会。来年の活動にもつながる貴重な交流の機会です

Interview

町の宝物を「全力応援」

利國(としくに) 奈美子(なみこ) さん(セブンイレブン松風店)

4月に女子野球の部員が揃ったと聞き、すぐに練習を見に行きました。すると、間近で活動を見てビックリ。女の子たちがひたむきに野球を楽しみ、頑張る姿に大変心打たれました。練習後にもよく来店いただいており、いつも笑顔の彼女たちに元気を貰います。

特に全国大会初勝利の日はとても嬉しかったです。勝利の知らせを聞いて、その日は来店された方たちに女子野球の活躍を自分のことのように話していました。

最近、お客さんからも女子野球を応援しているという声をよく聞くようになりました。子どもの数そして高校の入学者数が少なくなっている時代だからこそ、地域にとって子どもは「宝物」だと思います。女子野球をはじめ、栗山で頑張る子たちをこれからも全力で応援していきたいです。

生徒の”やりたいこと”が実現できる学校・地域に

駒井(こまい) 信和(のぶかず) 校長

男女それぞれの野球部の活躍はもちろん、春まで部員が0人であったテニス部も復活を遂げるなど、生徒数の増加だけではなく、部活動を通して高校の活気が増していることを実感しています。

本校では、既存の部活動が存在しなくても、生徒が希望する活動があれば、同好会を経ず直ちに創部を認めています。やりたい活動に全力で取り組んでほしいと考えており、また、指導者も中学校までの先生や地域の連盟・協会などの方々も指導ができる仕組みとなっています。

女子野球や福祉を学ぶ新しい科目などの特色に興味を持ち、入学する生徒を含め、私自身は「地元の子が通いやすい学校」として多くの町の子たちにも入学してほしいと思っています。そのためには、部活や学業を含む「やりたいことが実現できる高校」と感じられる条件や実績を整えることが不可欠です。地域の皆さんからの協力と応援を受けながら、生徒たちのために町全体と連携し取り組んでいきます。

注釈
[1]Designated Hitter(指名打者)の略。攻撃時に投手に代わって打席に立つ攻撃専門の選手のこと。
[2]日本高校野球連盟HP「部員数統計・硬式
[3]全日本女子野球連盟(2023)「競技人口推移に関する資料(2022年度版)

※ 本稿は、広報くりやま2023年10月号で掲載した内容を修正・加筆しています。

文章・写真:伊藤昴(町総務課) 写真:町総務課

最後まで読んでいただきありがとうございます。Instagramでも、栗山の音が溢れています。ぜひご覧ください!!