#6 本を借りる選択肢(2/2)|まちのこと
前編では、栗山町で実施している移動図書館(くりくり号)について解説しました。
後編では、新たに生まれた「電子図書館」について、担当する野澤香(かほり)さんから話しを伺いました。
野澤さんは、以前にも「くりやまのひと」で登場し、幼少期から憧れ、自分の職業となった「司書」について語ってもらっている。
電子図書館を導入した経緯
栗山の電子図書館は、2021年8月1日に誕生しました。誕生のきっかけは前年(2020年)の3月に遡ります。その当時の北海道は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下にありました。
多くの公共施設が休館を強いられるなか、栗山町図書館でも臨時休館を余儀なくされました。利用者に図書館へ来てもらえることができなくなり、野澤さんをはじめとした図書館スタッフ全員が、無力感に苛まれることになります。
この状況の中で「こういう時(コロナ禍)だからこそ、読書で心の充実を」という想いで生まれたのが「にこにこツバメ便」というサービス。15歳以下を対象に、申し込みに応じて無料で図書を宅配するというもので、この宅配サービスは利用者から好評を受けます。
2回目となった、4月中旬から5月末までの緊急事態宣言下では「大人もにこにこツバメ便はいぱー!」として、対象を町民全員へとサービスを拡大している。
しかし、野澤さんは「宅配サービスだけでは図書館本来の役割を果たすことができない」と、はがゆい思いを続けます。どうにか図書館に通わずに家や仕事場で図書館の本を読むことができないかと、6月頃から電子図書館の導入を考えるようになります。
全国に広がる自治体の電子図書館
導入を考えた当初(2020年7月時点)は、電子図書館を導入している自治体は全国で100[1]と、1割もありませんでしたが、コロナ禍により導入する自治体が増加。2021年10月現在では258の自治体が導入し、全国の自治体で設置が加速しています。
公共図書館 電子図書館サービス自治体の推移
2020年
1月1日現在 91自治体
4月1日現在 94自治体 (増減+3)
7月1日現在 100自治体 (増減+6)
10月1日現在 114自治体 (増減+14)
2021年
1月1日現在 143自治体 (増減+29)
4月1日現在 205自治体 (増減+62)
7月1日現在 229自治体 (増減+24)
10月1日現在 258自治体 (増減+29)
出典:一般社団法人電子出版制作・流通協議会(2021) p.1
栗山町図書館も同様に導入に向けて動きますが、手探りの中でスタートします。電子書籍に関しては著作権や公衆送信権[2]といった複雑な権利関係があり簡単に設置とはなりません。野澤さんたちは、これらの権利関係や法令などを調べあげ、デモンストレーション用の機器を試しながら、試行錯誤を続けます。
企画の発案から1年が経過した2021年8月1日、「栗山町電子図書館」がスタートしました。北海道の自治体では11番目[3]となります。
電子図書館はひとつの選択肢
「電子書籍元年」とも呼ばれた2010年から、10年以上が経過した現在。スマートフォンやタブレット端末の普及もあり、電子書籍はKindleや楽天koboなどのアプリを通じて、多くの人が電子で書籍で読む時代と変化しています。
「電子書籍ビジネス調査報告書2021」によれば、2020年度の電子書籍市場規模は、2019年度の3750億円から4821億円と、1071億円の増加(+28.6%の増)しています[4]。コロナ禍による巣ごもり消費やヒット作品となったコミックの売上げの後押しもあり、電子書籍の市場は拡大する傾向にあります。
加速する書籍のデジタル化のなかで「公共図書館としての電子図書館の役割は何か」という問いに対して、野澤さんは次の言葉を返します。
電子図書館は、あくまでも図書サービスの一環で選択肢の1つに過ぎません。コロナ禍では利用してきた人に対する「代わりのサービス」としての意味合いもありますが、これからは図書館を利用することが無かった人も対象になります。例えば「仕事が忙しくて図書館の利用時間に行けない人」や「本を読むのは好きだが、図書館という場所が苦手な人」といった、これまでの図書館と利用者の中で隙間が生まれている部分を補完する役割として電子図書館があります。
また、電子図書館の利用をきっかけに、学校や仕事が無い休日に実際の図書館を使用したり、サードプレイスの場として勉強や仕事に図書館を利用したりと、図書館利用の第一歩として、電子と現実の図書館の間を行き交う役割が電子図書館にあります。
野澤さんは「まだまだ課題も多いですが、利用者のニーズを汲み取りながら、今後は利用ガイダンスなどの環境を作って、利用拡大を図りたい」と、電子図書館に期待を込めています。
【注釈】
[1]一般社団法人電子出版制作・流通協議会(2021)
[2]著作権の一部で、公衆によって直接受信されることを目的として著作物の送信を行うことができる権利
[3]栗山のほかに導入している北海道の自治体は、札幌市、紋別市、苫小牧市、北見市、網走市、登別市、帯広市、恵庭市、天塩町、余市町となる
[4]インプレス総合研究所HPより
【参考文献】
・一般社団法人電子出版制作・流通協議会(2021)「電子図書館(電子書籍貸出サービス)実施図書館(2021年10月01日)」
・インプレス総合研究所HP「電子書籍ビジネス調査報告書2021」
※ 本稿は、2021年11月25日に行った取材をもとに作成しています。
文章・写真:望月貴文(地域おこし協力隊)
おまけ:栗山町電子図書館の使いかた
栗山町電子図書館は、栗山町図書館発行の「利用者カード」があれば、利用手続きの後、すぐ利用できるようになります。ここでは簡単に利用方法について紹介します。(今回はパソコンの画面を利用を紹介しますが、スマートフォンでも同じ方法で電子書籍を借りることができます。)
手順1 利用手続き
利用対象は、町内在住の方又は町内に通勤・通学する人となります。まずは栗山町図書館(分室も可)の窓口で、電子図書館を利用したい旨を伝え「栗山町図書館利用申請書」に必要事項を記載してください。
申請時には現住所がわかる書類(健康保険証や免許証など)が必要になります。(町内に通勤・通学者する人は学生証や名刺を提示します)
栗山町図書館利用申請書は、図書館のサイトでもダウンロードできるので、印刷して記入したものを窓口に提出しても問題ありません。
手順2 サインイン
手続き終了後、初期パスワードを渡されます。栗山町電子図書館のサイトにアクセスし、画像右上にある「サインイン」のアイコンにクリックします。
サインインのページが表示されたら、IDとパスワードを入力します。IDは、利用者カード番号と同じ 8 からはじまる番号で、パスワードは、初期パスワードを入力します(パスワードは変更可能です)。なお、パスワードを忘れた場合は、図書館で再発行となります。
手順3 借りたい図書を選択
サインインが成功したら、借りたい図書を選びます。カテゴリや検索機能を使って、読みたい書籍に探してクリックします。目的の書籍のページとなったら「借りる」のアイコンをクリックします。もう一度「借りる」のアイコンが表示されるので、そのボタンをクリックすると貸出が完了となります。貸出できる図書は3点まで、貸出期間は14日間です。
手順4 返却する場合
返却は、マイアカウント内にある「貸出中の作品」を選び、返却したい書籍を選択します。「返却」のアイコンをクリックすると、もう一度「返却」のアイコンが表示されるので、そのアイコンをクリックすると完了となります。(期限を過ぎると自動的に返却されます)
詳しい利用方法は「栗山町電子図書館利用ガイド」で確認できます。是非利用してみてください。
栗山町図書館の連絡先
電話: 0123-72-6055
開館日:火曜~日曜 (休館日:月曜・祝日・年末年始ほか)
時間:10:00~18:00 木曜日は20:00まで
HP:https://library.town.kuriyama.hokkaido.jp/