#7 寒冷地・北海道でサツマイモづくりに挑む青年|くりやまのひと
由仁・栗山の若手農家の合作である「由栗いも」
晩秋から初冬を迎え、冬支度に追われる北海道。農業が基幹産業である栗山町と夕張川をはさんだ隣町・由仁町も収穫の時を終え、次の収穫に向けて着々と準備を進めています。
両町には20~30代の若手農家が中心となる「そらち南さつまいもクラブ」という団体があります。青年たちは由仁と栗山で育てたサツマイモを「由栗(ゆっくり)いも」(品種:紅あずま)という名称で、ブランド化を進めており、栽培方法の研究や食育、販売活動を精力的に行っています。
その青年たちを束ねるのは、代表である川端祐平(ゆうへい)さん。川端さんは、由仁・栗山の農家が一緒になって質の高いサツマイモを作ることに強い想いをもつ一人です。
今回は、川端さんから由栗いもを作ることになったきっかけについてお話を伺いました。
何も疑問を持たずに農家を志すことに
川端さんは由仁の農家の出身です。子どもの頃から両親と同じ農家になる気持ちはあったのかどうか尋ねると「全然無いんですよね。子どもの頃は春先のもみ播きなど、簡単な仕事を手伝うことはありましたが、土日は友達の家に遊びにいくという生活が当たり前でした。」という意外な言葉がでてきます。
由仁の小学・中学校を卒業後、岩見沢市の北海道岩見沢農業高等学校に進みます。入学時も農家になる意識は無かったようでしたが、学校生活の中で自分が育てた野菜を販売する際に、お客さんからの反応をもらうことで、少しずつ農業の面白さが芽生えはじめました。
大学への進路は、先生の薦めもあり本別町にある北海道立農業大学校の稲作経営専攻コースを選択しました。同コースは拓殖大学北海道短期大学(深川市)の元で研修することなり、2年間を深川で過ごします。大学校生活を経て、農業を学ぶ楽しさを覚えた川端さんは、両親と同じ農業の道へ歩むことにします。
大学校を卒業した後、川端さんは「国際農業者交流協会」の農業研修の機会を得て、アメリカのワシントン州に約1年半に渡りファームステイします。
アメリカではファームステイ先の有機栽培をする農家の元で、栽培技術を学んだほか、アメリカ式の大規模農業や経営手法も肌で体感しました。週末には隣のアイダホ州まで出向いてファーマーズマーケットで農作物や加工品を売る活動をしました。収穫した野菜を加工品にするなど実習生活は充実していたようで、アメリカで学んだ知識や経験は後の活動で活かされることになります。
学び場と同年代の農家との出会いを求めて
アメリカから帰国した川端さんは、故郷・由仁に戻ります。戻った当時は地元の農協である由仁町農業協同組合(JA由仁町)と栗山町農業協同組合(JAくりやま)が合併し、そらち南農業協同組合(JAそらち南)として舵を切ったばかり。若手農家の集まりである同青年部も合併し、いままで縁が無かった栗山の若手農家と交流する機会が少しずつですが、生まれはじめます。
研究熱心である川端さんは、青年部活動の傍らで積極的に同世代の人と農業を研究できる機会を求めます。農業の後輩からの薦めもあり、由仁の4Hクラブ[1]に加入したことをきっかけに、栗山の4Hクラブのメンバーと知り合うことになりました。
4Hクラブは学びを軸とした団体で、川端さんの想いがぴったり合いました。メンバーの間で栽培技術を研鑽するほか、道外への研修を続けていくうちに川端さんは、由仁と栗山のメンバーで直接生産・販売をできる作物ができないかと模索することなります。
栗山のメンバーとも相談し試行錯誤の結果、JA青年部が食育活動の一環として行っていたサツマイモの収穫体験からヒントを得て、自分たちの手でサツマイモを栽培してみようかと決意します。現在の前身となる団体を2017年に発足し、寒冷地である由仁・栗山の地で適した栽培方法は何かを、研究しはじめることになります。
そらち南さつまいもクラブの活動
サツマイモを選んだ理由は大きく2つあります。1つ目は「農協の作物部会には無い作物」であり、中南米原産のサツマイモは北海道でほとんど生産されておらず、自分達でスタートしやすかったこと。2つ目は「貯蔵をすることができ、スイーツなどに加工しやすい作物」であり、北海道の寒暖差を活かした貯蔵により、ほかの地域ではできない甘みを生むことができると判断した背景がありました。
しばらくは、試験的な栽培を重ねてきましたが、研究熱心なメンバーとの間で意見を交換。お互いに栽培方法を共有することで栽培技術が向上し、サツマイモを安定的に収穫ができるようになりました。
川端さんの農場で植えたサツマイモも、2017年当初は30株でしたが2021年は2,500株まで増加。2022年はさらに数を増やす予定でありもサツマイモを栽培したいという新たな農家も増えるようです。
サツマイモの栽培に自信をつけてきたメンバーは、2021年1月に正式に「そらち南さつまいもクラブ」を発足し、栽培だけではなく、食育・販売活動も開始します。
今年は「由栗いもフェスティバル」という名前で、1月から2月にかけて由仁町内8箇所の飲食店が、由栗いもを使った独自のメニューを提供するイベントを開催しました。栗山では10月に開かれた「ヤムズキッチンテイクアウト市」に出店し、クラブのメンバーが焼き芋を販売しています。11月には日高町の門別競馬場にも出店しており、由仁・栗山以外で、直接消費者から声をきくことは初めてで嬉しかった、と川端さんも喜びの声を上げていました。
「北大マルシェアワード2021」で最優秀賞を受賞
そらち南さつまいもクラブの活動は、外部からも喜ばしい評価を受けています。2021年11月13日(土)に北海道大学で開かれた「北大マルシェアワード2021」[2](主催:同実行委員会)で、ファイナリストとして出場。最優秀賞を受賞しました。
取材の中で発した「由仁町だけでは、由栗いもの活動をここまでつくることはできなかった」という言葉。メンバーを総括する川端さんの言葉からは、自分達の活動を堅実に広げていきたいという実直ながらも強い意志が溢れていました。
農協の合併で二つの町の農家が集まってできた「由栗いも」という結晶。由仁・栗山の両町で生まれたサツマイモの動きは、北海道の中で着実に広がりをみせています。
注釈
[1]20~30代前半の若い農業者が中心となって組織され、農業経営をしていくうえでの身近な課題の解決方法を検討する農業青年クラブ。(農林水産省HPより)
[2]2009年に北大で始まった「北大マルシェ」の発展的な形態として、未来を見据えた活動を行う人を発信することを目的として開催。北海道で未来の農業、農村、食づくりに取り組んでいる者を表彰し、その活動を広く世界に発信している。2021年からスタートした。
参考文献
Izawa Farm「サツマイモが豊作!~そらち南さつまいもクラブについて~」
※ 本稿は、2021年11月5日に行った取材をもとに作成しています。