#5 消費者との会話を求める養鶏家|くりやまのひと
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#5 消費者との会話を求める養鶏家|くりやまのひと

新鮮な卵を届ける栗山の養鶏場

栗山町松風にあるスーパーマーケット「ラッキー栗山店」。その野菜コーナーに栗山産の卵が置かれています。栗山町の七不思議ではありませんが「なぜ、野菜コーナーに卵が置かれているのか」と、首をかしげる町民も多いはずです。

その卵を生産しているのは、南角田にある養鶏場・有限会社酒井農場。現在は、2代目である酒井利夫(としお)さんが経営し、町内・町外に向けて新鮮な卵を提供しています。今回は、酒井さんに、酒井農場や養鶏について聞いてみました。

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酒井農場は、1963年に地元のたまご屋さんとして設立。1978年に養鶏の専業化に伴って、有限会社として会社組織化しており、現在は3万羽を飼育している。

家を継ぐという認識は、東京の生活で心変わりしたが

酒井さんは、明治時代に淡路島から入植した5代目、3人兄弟の長男として栗山で生まれました。

家業の長男として生まれた酒井さん。幼少期から、自分は社長の息子であるという認識と、周囲の声もあり、家業を継ぐことは当たり前として捉えていました。また長男であり、周囲にお手本となる年齢の近い存在がいなかったため「何をやっても、これでいいのだろうかという気持ちしかなかった。そういった意味では、自分は思慮深いほうだったのかな」と、当時を語っていました。

「自分が家業を継ぐ」という漠然な気持ちは、中学、高校と成長するにつれて徐々に明確になっていき、高校卒業後の進路は、酒井農場の将来に役立つであろうと情報処理の専門学校を選びます。

卒業後は、学んだ情報処理の世界へ身を投じるため、東京でシステムエンジニアとして活躍しましたが、東京の社会人生活の中で、仕事の楽しみや理解が進むとともに、家業を継ぐという認識が「当たり前」から「ためらい」へと変化することになります。

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東京でシステムエンジニアとして働いていた頃の酒井さん(写真右)。当時は東京証券取引所のシステムの一部を担当し、新聞社へ株価情報を提供する業務を行っていた。(写真提供:酒井利夫)

働き盛りであった23歳の夏。東京にきた先代から呼び戻されることになります。当初は、家業を継ぎたく無い気持ちもありました。一方で、将来家庭を持ち、子どもを育てるというビジョンが、大都会東京の中でまったく見えなかったこともあり、栗山に戻る決心をします。

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「当時は、札幌での就職ではすぐに呼び戻されるため東京を選んだが、今思えば、東京じゃなくてアメリカに行けばよかった」と、冗談っぽく話していた。

家業を継ぎ、奔走して感じた限界

1989年に酒井農場へ入社し、約10年間、仕事を覚えたあと取締役専務として経営権を得ました。しかし周囲の目は「社長の息子」としての認識のままであり、自分の存在がなかなか発揮できない環境にありました。「自分だったら経営をこうしたいと、思うことはあれど、当時は思いどおりの仕事にはならなかった」と言います。

2004年、代表取締役社長として家業を継ぐことになりました。しかし先代の経営が芳しい状態ではなく、販売先や取引先が変化していく中、当時15万羽いた鶏を支えきる体力は残されてはいませんでした。

酒井さんは、経営のスリム化を図ります。15万羽から3万羽まで、鶏の数を段階的に減らし、支出面の改善も行いました。また、これまでの生産を中心としていた業務形態から新たな販路の確保として、町内や町外の直売所や量販店へ販売先を増やしてきました。

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「酒井さんの卵ってどこで買えるのかわからない」と言われたことがあり、酒井さん自身が販路を広げていった。酒井さんの卵が栗山町内の多くで購入できるのは、専務時代から始めた営業活動によるものだ。

代表取締役社長に就任して4年が経った頃、弟である次男・秀典(ひでのり)さんが酒井農場に働くことになりました。営業畑で育った秀典さんは、持ち前の営業能力を活かし、道内のレストランチェーンや洋菓子店に積極的に営業を行い、多くの企業への販売先を拓くこととなります。町外へ販売先が増えたことにより、経営体質を改善することに成功しました。

しかし、同時に自分の範囲内の経営だけでは、限界が見えてきたとし、次なる事業を模索し始めます。

「とうきびたまご®」という物語のある商品

卵は商品の差別化が難しい食品です。酒井さんは事業の限界を感じる中、自分の卵をどう魅せていけばよいか考えるようになりました。考えを重ねる中、飼料や飼育にこだわるようになっていきます。

そのような中、酒井農場に生まれたのが「とうきびたまご®」です。地元の農協から緑肥[1]用で使用した、とうきびの飼料の処理について相談を受けたことがきっかけでした。当時の緑肥の量はわずかではありましたが、農家のために今後も緑肥の量を拡大していくのであれば、必要分を飼料として引き受けると約束しました。

当初は、とうきびを鶏の餌としてどのように与えればよいか、具体的な発想がなかったため、成果がでない時期が続きますが、折良くデザイン会社の方と知り合う機会を得ます。彼らにその話しをすると、酒井農場の「ブランド卵」として商品化を進めたほうがよいとアドバイスを受け、本格的に商品化に向け動くことになります。

とうきびを安定的に供給できる体制を少しずつ整え、飼育方法を検討・見直した結果、7年の歳月をかけて、2017年に「とうきびたまご®」の製品・商標化に成功することとなります(商標登録第5991311号)

飼料・飼育方法の徹底と、製品のデザインを一貫したことにより、一つの物語のある商品として、とうきびたまごが生まれたことで、酒井農場の認知が全道・全国的にも認知されていきました。

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デザイン会社との対話を行いながらして完成させた「とうきびたまご®」は、ふるさと納税の返礼品でもあり、道外納税者からも人気の商品だ。

コロナ禍の中、悩んだ末に生まれた家を直売所に

「とうきびたまご®」を販売してから「酒井さんの卵を使いたい」という企業からの依頼が来るようになりました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、重要な取引先であった飲食店が打撃を受けることになります。

コロナ禍で、取引先との関係や今後の経営が、大きく変わることとなります。新型コロナウイルスが蔓延し、半年間は何もできずにいた酒井さん。悩みに悩んだ末、人と人とが会いにくい状況だからこそ、消費者から直接、声を聞くことができる機会をつくる必要があるとして、直売所を始めることにします。

自分の生家を改装し、古民家たまご直売所「酒井農場本舗」を2021年5月にスタートします。酒井さんにとって、この直売所が新たな挑戦の場になります。

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直売所は、築85年を超えた茅葺き屋根の生家を風合いを活かしながら改装した。場所を検討した際は、念頭になかったようで「まさか自分が生まれ育った家を改装するとは」と、語っていた。

消費者と直接「顔」が見える養鶏家を目指して

全国にある1000羽以上の鶏がいる養鶏場の数は、2003年は4,270戸[2]でしたが、2018年には2,200戸[3]と、15年間で半数まで減少しています。北海道でも同様の傾向にあり、空知管内においては酒井農場含めて2戸しか養鶏場はありません。

酒井さんの話しによれば、「廃業も多いが統合・合併もある」とのことで、養鶏業界は大手企業による寡占化が進んでいると言えます。酒井農場は、中規模程度の養鶏場で3万羽と、多くの鶏を飼育しているわけではありません。

卵は和食や洋食、中華、製菓と、多くの料理に使用される基本的な食品です。一方で差別化が難しい食品だからこそ、栗山にある中小の養鶏場が、経営を続けていくためには、これからも養鶏家としてのこだわりや質を消費者に物語(ストーリー)として提供する必要があります。

かつて家業を継ぎたくないと話していた酒井さんでしたが、不思議なことに、3人の息子さんは、将来の仕事としてそれぞれ養鶏家を志しているようです。実際、長男の純希(じゅんき)さんは、2016年に酒井農場に入社し、販売・営業に奮闘している日々を送っています。

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父の背中を見てか、養鶏家の背中を見てかは分からないが、3人の息子さんが養鶏家になりたいという話しは、父・利夫さんが直接聞いたわけではなく、母・真由美(まゆみ)さん(写真右下)から間接的に聞いたようで、二人で「何でだろうね」と不思議がっていた。写真左上は長男の純希さん、写真右上は農場長の平澤さん。

さて、冒頭で紹介したラッキー栗山店の卵の謎。その答えは、こちらでは書かないことにしました。もし答えが知りたい方は、酒井農場本舗に伺って、酒井さん本人に聞いてみてはいかがでしょうか。きっと快く謎についてお話してくれることでしょう。

※ 本稿は、2021年8月5日に行った取材をもとに作成しています。

【注釈】
[1]作物を畑で育て、土にそのまますき込むことで肥料分になったり、有機物として土壌改良に役立つ草の肥料のこと
[2]農林水産省(2003)「畜産統計調査」平成15年度
[3]農林水産省(2018)「畜産統計調査」平成30年度

文章:望月貴文(地域おこし協力隊) 写真:長広大(地域おこし協力隊)
取材協力:星野愛花里(栗山町農業振興公社・地域おこし協力隊)

酒井農場本舗の基本情報

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住所:〒068-0356 北海道夕張郡栗山町南角田97
電話: 0123-75-2975
営業日:土・日
時間:10:00~16:00
HP:http://sakaifarm.net/

酒井農場公式アプリ

上:Google Play 下:App Store


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