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#8 伝統的な手織りとファンキーな精神の狭間で生まれるもの|くりやまのひと

くりやまのおと

ヘンプ(大麻)という伝統の繊維を績む

4月に入り、北国の北海道にも春の陽気が訪れました。寒暖が激しいこの時期は衣替えの難しいタイミングでもあります。

普段身に付けている衣服は様々な素材が使われています。天然繊維では「コットン(綿)」や「リネン(亜麻)」といった植物由来、「シルク(絹)」や「ウール(毛)」など動物由来の繊維がありますが、今回は植物由来の「ヘンプ(大麻)」に焦点をあてます。

大麻は違法薬物ですが、手織り(紡績)に使用するは、大麻取締法により規制外となっています。

大麻取締法第1条 昭和23年法律第124号
この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。

今回は、栗山町在住で、ヘンプを績む活動をしている村舘奈保江(なおえ)さんに、自身のライフワークとなった繊維を紡ぐきっかけや楽しさについて教えてもらいました。

村舘さんは、栃木県産の大麻を精麻(せいま)[1]の状態で仕入れ、すべて手作業で糸や生地へと加工している

都会の生活に疑問に思い、肌に合う農業と出会う

村舘さんは苫小牧市の出身で、パンクな音楽と何かデザインすることが大好きな少女でした。ものづくりが好きな村舘少女は、独学で好みの服を作ることもあり、将来の夢を「デザイナー」と定めます。

高校後の進路をファッション業界に絞り就職活動に挑戦しましたが、当時のファッション業界の考え方が肌が合わず断念。卒業後、2年間のアルバイトでお金を貯めます。将来的に上京を見据えつつ、札幌で事務職に就いて社会人生活をスタートさせることにしました。

村舘さんは手先が器用だったが、学校の家庭科の成績は10段階中の「2」。当時から服飾に強いこだわりも持っており、先生の言うことを聞かない問題児だったようだ

しかし、ビルやコンクリートに囲まれた都会の中での生活は、時を早く流れさせることとなり、上京をするタイミングを逃がすことになります。40歳代に迫り、職場と自宅の往復を繰り返す自分を振り返すと、次第に都会暮らしに強い違和感を抱える自分と対峙することになります。

対峙を経た中、村舘さんは「田舎で農業がしたい」と思いが募り始めます。当時は農家へ就職する伝手が無かったこともあり、札幌から通いで農場のアルバイトを始めることにします。アルバイト経験を踏まえて「外の空気の中で活動する農作業は自分の肌に合った」という村舘さん。本格的に田舎に暮らしたいと強く考えるようになり移住先を模索します。

縁もあり栗山の隣町・長沼町に移住することになり、工場で働くチャンスも得て、トントン拍子に事が動き始めます。移住後、しばらく工場で勤務していましたが、村舘さんの熱心な働きぶりを農家の同僚から見惚れられ、農業をやりたがっているのを察知してか、栗山にある「湯地の丘自然農園」へ就職をスカウトされることになりました。

栗山の地で憧れの農業生活が始まります。農園の収穫作業と直売所である「値ごろ市」で裏方スタッフとして、イベント企画などで手腕を振るうことにもなり、自分の生活基盤を築くことができました。

植物を手作りで紡ぐ楽しさ

農業生活の傍ら、村舘さんは自宅内に工房アトリエNAOを構えます。札幌時代から続けていたライフワークであり、自分で織った布で作った衣服をお店に納品したり、手作り小物や石けんのスキルを活かしてワークショップの講師や、自分で作った作品をオンライン販売などでも生計を立てていました。

現在の活動の根幹となったへンプとの出会いは、友人の勧めで一緒に受講した「麻糸産み後継者養成講座」からはじまります。

「今の時代に、新たに大麻の糸を生産できる人たちを生みだし、次世代に繋いでゆこう」[2]という願いを込めて、2012年から始まった同講座。2015年に北海道で初開催されることになりました。当初はあまり関心を示さなかった村舘さんでしたが、友人に誘われるがまま受講することになります。

いざ講座が始まると「私はこれは合わないわ」と、誘った当人は匙を投げてしまいましたが、村舘さん自身は、当初の思いとは裏腹にへンプの魅力に心を奪われてしまいます。

なぜ、ヘンプの魅力にとりつかれたのかを聞くと、村舘さんは精麻を見せてくれて、こう言いました。

植物からコレ(精麻)ができ、糸にしたものから織りにして生地ができるという、ヘンプの行程に壮大なロマンを感じたんですよ。これまでは羊毛(動物繊維)の織りをしていたんだけど、植物でも繊維がとれて糸ができるということを肌で感じることで、生命の力強さに感動したんです。

受講を経て、これまでのアイデンティティの一つであった服飾活動に、ヘンプの伝統工芸の技術が加わり、自身の活動を昇華させることとなりました。

ヘンプは、精麻から「糠汁で煮る→麻打ち→麻裂き→糸績み」の工程で、数日かけて糸にしていく(写真上)。そこから「糸紡ぎ→糊付→生地織り」の工程を経て、ヘンプの生地を作る(写真下はヘンプのストール)。空いた時間を見つけて少しづつ作業しているため、完成には膨大な時間がかかる(画像提供:アトリエNAO)

麻糸績の様子を紹介した動画。唾液に含まれるアミラーゼが接着の働きをしている(動画元:naoe muradate

紡ぐ行為から生まれた仲間の輪

農業やヘンプの手織りを中心としたクリエイトな活動から、自身の生計を立てる「多業」[3]の働き方を選択した村舘さん。積極的で活動的な考えや、トレードマークであるピンクの髪から、社交的で天真爛漫な性格が見え隠れしますが「自分はファンキーな人見知りですよ」という言葉が返ります。

もともと籠ることが好きなんですよ。型に縛られないというだけで。なので昔から作業をすることは性に合ってるんですよね。札幌からこっちに来てからは、自然に対する見方が変わって、アーティストさんたちと繋がりをもったことで、たくさんの縁をもらったんですよ。今の自分は、一つ一つもらった縁が重なった結果です。

最近は、ペンプ以外に樺太アイヌを衣類に使用したイラクサに強い興味[2]を示しており、アイヌの伝統工芸を学び、実際に伝授された技法を用いて、江別市で採取したイラクサを使ったワークショップも開催しています。

自分のスタイルを貫くことを好む一方、昔ながらの技術を自らの手で少しづつ着実に伝えていく活動は、村舘さんの人当たりの良さを慕って、たくさんの人がヘンプを績む時間を楽しんでいます。

取材時も、友人と共にヘンプの手織り技術を伝えていた。「エシカルショップJVSTYLE」は村舘さんの大事な活動拠点の一つであり、月2回程度ワークショップを行っている

エシカルショップJVSTYLEの基本情報

住所:〒069-1133 北海道夕張郡由仁町三川旭町278
営業日:土曜・日曜 ※平日は不定期営業
時間:11:00~17:00
HP:https://www.jv-style.net/

注釈
[1]大麻の茎から取れた皮から表皮を取り除き、靱皮(じんぴ:植物の外皮の下にある柔らかな内皮)部分を取り出したもの
[2](一社)日本古来の大麻を継承する会
[3]1つの“仕事”のみに従事するのではなく、同時に複数の仕事にたずさわる働き方
[4]北海道(1997) p.12

※ 本稿は、2022年1月24日及び4月14日に行った取材をもとに作成しています。

参考文献
北海道(1997)「ポンカンピソシ2 着る(アイヌ文化詳細小冊子)」
・(一社)日本古来の大麻を継承する会「麻糸産み後継者養成講座とは」

文章:望月貴文(地域おこし協力隊) 写真:長広大(地域おこし協力隊)


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